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AIが進化するほど、アナログレコードが消えない理由

あらゆるものがデジタルによって最適化され、効率化されていく時代。
音楽も、仕事も、コミュニケーションも、気づけば平均値に収れんしていく。
便利で、速くて、無駄がない。
私たちはいま、かつてないほど洗練された環境の中にいる。

 

音楽の世界も例外ではない。
AIの進化によって、ジャンルやムードを指定すれば、音楽は容易に生成されるようになった。
完成度は高く、破綻も少ない。
必要なときに、必要な音楽が、すぐに手に入る。
合理的で、効率的な進化だと思う。

 

それでも私は、テクノロジーが進化すればするほど、
アナログレコードは消えないのではないかと感じている。

どんなにテクノロジーが進化しても、人間そのものは数百万年前から大きく変わっていない。
頭の先から爪の先まで、私たちは不完全で、感情に左右され、揺らぎの中で生きている存在だ。
どちらかといえば、論理よりも感情によって判断している部分のほうが大きい。
その事実は、テクノロジーがどれほど高度になっても変わらない。

 

テクノロジーが進化すればするほど、
アナログの価値は相対的に高まっていくのではないだろうか。

 

音楽がAIによって無限に生成される時代には、
「誰が、どのように作ったのか」という背景や、
ライブで共有される空気感そのものが価値になる。

 

人が考え、迷い、判断しながら作った痕跡。
時にはミスもあるかもしれないが、
アナログレコードには、そのすべてが物理的に刻まれている。
完璧ではないが、だからこそ人の存在を感じることができる。

 

また、アナログレコードの体験そのものも非常に人間くさい。

 

ジャケットからレコードを取り出し、盤面をさっと拭いて針を落とす。
一度再生を始めれば早送りはできず、
20〜30分、音楽と向き合い続けることになる。

ジャケットから漂う紙の匂いを感じながら、ライナーノーツに目を落とす。
これらの所作は決して効率的とは言えないが、
とても人間らしい行為だと思う。

 

すべてがテクノロジーで効率化されていく未来では、
こうした「人間くささ」を感じることができる
アナログレコードの体験は、ますます価値を持っていくのだろう。

 

これはアナログレコードに限った話ではない。

 

テクノロジーが進化すればするほど、
リアルに人と会うことはより貴重になり、
手を繋いだときの温かさや、
同じ空間で笑い合うことの意味を、
私たちはいま以上に大切にするようになるのではないだろうか。

 

音楽に置き換えれば、
同じ空間で音を共有する体験の価値は、これからさらに高まっていく。

ライブに足を運び、生の音に身を置く。
そこには最適化も平均化もないが、確かな体温がある。
人々は、そうした体験をより強く求めるようになるのではないかと思う。

 

もうひとつの理由は、
テクノロジーが人々の可処分時間を増やしていくことだ。

 

かつて、人間は農作業に多くの時間を費やさなければ生きていけなかった。
しかし機械の進化によって、
私たちはその労働から解放され、
別のことに時間を使えるようになった。

それが筋肉の拡張だとすれば、
いま起きているAIの普及は、脳の拡張なのだと思う。

 

作業が効率化され、時間が生まれる。
これまで週休2日が当たり前だった働き方も、
いずれは週休3日が特別ではなくなる時代が来るのではないだろうか。

 

そうして生まれた新たな時間に、
人間は何をするのだろうか。

おそらくその多くは、
各々の趣味の時間として生活の中に組み込まれていく。
効率や成果を求められる時間とは別に、
純粋に自分の趣味のために使う時間が増えていくということだ。

 

人々の可処分時間がなければ成立しない
趣味の産業に関わる人間として、
これはとても喜ばしい変化だと感じている。

 

テクノロジーがどれほど進化しても、
音楽を聴くのは人間だ。

アナログレコードは、その当たり前の事実を、
これからも私たちに静かに突きつけ続けるのだと思う。

レコードに針を落とすその瞬間を、
心地よいと感じる感覚だけは、きっと変わらない。